俺様外科医と偽装結婚いたします
あの瞬間自分に向けられた彼の真摯な眼差しと真剣な声。思い返すたび、頬の熱が増していく。
心の温度まで上昇しそうになるのを自重すべく深呼吸してから一気に廊下を進んだ。
「もう苦しくないし、一晩休めば大丈夫だよ。先生のお世話になる必要もない」
「いえ、ダメですよ。念のため検査を受けましょう。話もつけておきました。明日、絶対に来てください」
ドアを開けた瞬間、耳に飛び込んできたふたりの会話に思わず動きが止まる。
そっと室内を覗き込むと、操作していたスマホをポケットに戻した環さんが、ソファーに座っているお祖母ちゃんへと身体を向けたところだった。
首を縦に振らず、しかも不貞腐れた顔をしたお祖母ちゃんに対して、環さんがすっと瞳を細めた。
「わかりました。朝、迎えに来ますね」
口元は笑っているけれど、目は本気だ。途端、お祖母ちゃんは参ったというように両手で頭を撫でた。
やりとりが面白くてふっと笑みをこぼすと、ふたりが揃ってこちらに顔を向ける。
じろりと見つめられた気まずさに口元を強張らせて視線を落とすと、程なくしてお祖母ちゃんが静かに切り出した。
「今日のことは心から感謝しているよ、ありがとう……検査にも行きます。でも同行は咲良にでもお願いするから……、もうこれ以上私たちを気遣おうとしなくて良いんだよ」