俺様外科医と偽装結婚いたします


「特に困ることはない。一緒にいたのは恋人ですかって聞かれたらイエスと言うだけだから。……俺がそう答えたら、咲良は困る?」


真剣な眼差しで問われ、私は手から力を抜いて抵抗をやめる。

昨日の答えを求められていると感じて、緊張がこみ上げてくる。

もちろん私の答えは決まっている。困らない。……むしろ嬉しい。環さんの本物の恋人になりたい。

首を横に振って返事をすると、環さんが嬉しそうに笑った。

そのまま私の方へと顔を近づけてきたけれど、すぐに身体を後ろに引き、警戒するように周囲を見回す。


「そうだった。職場は人目がありすぎるよな……でも」


言うなり、絡みついたままの私の手を引き寄せて手の甲に口付けた。自分のものではない温かで柔らかい感触に鼓動が加速する。


「キスは我慢するから、これくらい許してくれ」


甘く囁きかけられて、数秒呼吸を忘れた。

環さんから放たれる艶やかさと看護師さんたちが上げたと思われる黄色い声、注目されていると痛いくらいに感じる周りからの視線。

私は気恥ずかしさに身体を強張らせたまま、ただただ環さんだけを見つめ返した。

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