俺様外科医と偽装結婚いたします
私の時はあれほど渋っていたというのに、陸翔に対してはあまりにも態度が違いすぎていたこと。
このお店を継ぐのは私より陸翔がふさわしいというのはちゃんと理解しているのに、どうしても自分への態度と比べてしまい、切なさで胸が苦しくなってしまった。
それだけではない。
お祖母ちゃんは、お母さんのような考えを持ってくれなかったのだ。
小さく息をついてからコーヒーをカップに注ぎ込んだ。私は出来上がったコーヒーをトレーに乗せると、お祖母ちゃんではなく銀之助さんの元へと運ぶ。
「お待たせしました」
テーブルにコーヒーを置こうとしながらちらりと目を向け……ドキリとする。
驚きと動揺で手から離れたソーサーが、派手な音を立ててテーブルに着地した。
「すっ、すみません!」
ソーサーへとコーヒーが少しこぼれ落ちてしまい慌てていると、窓の外へと向けられていた銀之助さんの視線がこちらに戻ってきた。
すぐに微笑みを浮かべて、「大丈夫ですよ」と私を気遣ってくれた。
その様子は紳士的で優しいいつも通りの銀之助さんだというのに、鼓動はひどく高鳴ったままだった。
「……咲良さん。私にコーヒーは一滴もかかっておりませんから、そんなに深刻な顔をなさらないでください」