俺様外科医と偽装結婚いたします

ついさっき、銀之助さんにお孫さんと会う約束をしてしまった。

一緒に食事だなんて、そんなの苦行でしかない。自分をストーカー呼ばわりするこの人とは、絶対に良好な関係など築けない。

約束したことを後悔し食事は断らねばと考えると、同時に嬉しそうに笑った銀之助さんの顔が頭に浮かんでしまい、心が痛んだ。


「いや。問いただすよりも先に……」


瞬間、どきりと鼓動が跳ねた。頬に感じた自分のものではない指先の暖かさに、身動き一つとれなくなる。

顎を持ち上げられ、抵抗する間もなく環さんと自分の視線が繋がり合った。


「困っていた祖父に手を差し述べてくれて、ありがとう」


少しだけ柔らかくなった眼差し、微笑みの形になった口元、温かみのある声。

見せてくれた一面が私の時間を止めた。

頭の中が真っ白になり、呼吸も忘れ……なぜか彼から目が離せない。


「感謝はしている……だが、それ以外は到底受け入れられない。祖父さんに取り入ろうとするとか、お前最悪だな。そこまでして俺をものにしたいのか。呆れる」


文句を並べながら、私の顎を掴む彼の指先の力が徐々に強くなっていく。と同時に、私の意識も一気に現実へと引き戻されていった。

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