俺様外科医と偽装結婚いたします

椅子に座り直し、前を向いた銀之助さんへと、祖母がすかさず話しかけた。


「お孫さんの……えぇと確か、環さんでしたよね。予定通りいらっしゃいますか?」

「はい。大丈夫です。診療時間も終わりましたし、先にお店に向かっているはずです。今宵は記念すべき日ですからね。緊急オペが入らないことを願うばかりです」


祖父が院長を勤めている病院に孫である彼が医師として働いていたとしても、何らおかしくない。

そう納得する傍ら、まさかあいつが医者という立派な職業に就いている人間だったとはと受けた衝撃は大きかった。

さすがのお祖母ちゃんも最初は驚いた様子で口を半開きにさせていたけれど、再び目が合えば、その瞳に強い輝きが戻ってくる。

表情から「医者! 絶対に逃してはダメ!」という考えが痛いほど伝わってきて、これからのことを想像し涙目になった。

見た目は良い方。職業、医師。多少性格が悪かろうが、女性に不自由はしていなさそう。

あいつもきっと私と同じように、銀之助さんの期待を感じているだろうし、その上で今日の食事会にどのような意味があるのかも分かっていると思う。

なぜ断らなかったのだろうか。考えれば考えるほど疑問は膨らんでいく。

昨日の電話で、私にお礼をと言っていたそうだけど……きっとそれはない。

逆に、みんなの前で私に文句を言い、この前の憂さ晴らしをするつもりでいるのかもしれない。

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