アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

思い当たることがないワケではなかった。


並木主任がこの研究所に来たのは、放線菌を探す為。現に仕事中に会社とは関係のない放線菌探しをしていたし。でも、だからと言って並木主任が本業の仕事を疎かにしているとは思えない。


以前、並木主任を担当していた山本先輩から引継ぎを受けた時、めったに人を褒めない山本先輩が、並木主任は今まで担当したどの研究者よりも自分と仕事に厳しく、優秀な人物だと絶賛していたもの。


「それは誤解です。並木主任は真面目に研究に打ち込んでいます」

「本当にそう思う?」


自信を持って「はい」と答えると大嶋常務は小さく二度ほど頷き「では、バイオコーポレーションへの忠誠心は?」と聞いてきた。


「忠誠心?」

「そう、本社に居た時の彼は会社の利益を最優先に考え、バイオコーポレーションの発展に貢献してくれていた。上司の信頼も厚く会社への忠誠心も強く感じられたのだが……今は、どうなんだろうね?」


どうなんだろうと聞かれでも、私にそんなこと分かるワケがない。困惑して黙り込んでいると、大嶋常務が私の前の長テーブルに両手を付き、腰を折って顔を近づけてくる。


「最近、彼が会社の不満を口にしたことはある?」

「い、いえ……」

「では、他社の同業者と会っているのを見たり聞いたりしたことは?」


捲し立てるように質問を浴びせてくる常務の威圧感がハンパない。


なんなの? 常務は私から何を聞き出そうとしているの?

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