フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「お名刺は……わたくしも持ち合わせてはいないので、ご無礼します」
そう言って彼らをエントランスへ招き入れながら、
「とりあえず今回撮影されたものは社内のみでご覧になるということなので、お引き受けしました。
お話が進んで本格的にここを撮影現場にご希望される場合は、再度考えさせていただきます」
あらかじめ小笠原と取り決めておいた内容を告げる。
「はい、それはもう、心得ております」
企画部長の東氏があわてて言った。
「お庭と外観は、わたくしもSNSにアップしていますし、ご自由に撮影してくださって構いません。
家の中は一階の応接間とダイニングキッチンのみでお願いします。
二階は主人とわたくしの、よりプライベートな空間ですのでご遠慮ください」
——それぞれの寝室があるからね。
「ありがとうございます。そこまでお許しいただくと大変助かります」
チーフプロデューサーの加藤氏はホッとしたように相好を崩した。
そして周囲をぐるりと見回したかと思えば、早速肩にかけていた大きめのバックパックから撮影用の小型カメラとハンドベルト型のジンバルを取り出して装着すると、建物の外観にレンズを向けて収録を開始した。
時折東氏の指示を受けつつ、手際よくキャメラを操っている。
どうやら、ディレクター上がりのプロデューサーのようだ。
見るともなく風間に意識を向けると、彼はいつの間にか一眼レフのカメラでエントランスのジューンベリーを撮っていた。
——そういえば、超多忙な彼の唯一の趣味が「写真」だったな……
五年も付き合っていた割にはほとんどデートらしきことなどしたことがなく、わたしは実家暮らしだったし、彼のマンションへ通って写真週刊誌にパパラッチされるわけにはいかなかったしで……
結局のところ「密会」はいつもシティホテルだった。
そのときに、ドラマや映画での撮影で訪れた現場で撮った写真をよく見せられた。
特に覚えているのは、N◯KーBSの紀行番組の撮影で行った北欧の北極圏で撮ったというオーロラの写真だ。
今まで仕事柄いろんな写真を見てきたけれど、あの幻想的なエメラルドグリーンの「夜空のカーテン」はちょっと忘れがたい。
案の定、オンエアされた映像もとてつもなく雄大で荘厳な美しさであった。
——みなさまの受信料から成り立つN◯Kだからこそ撮れたんだ、と思わずにはいられないけどね……
ベストな画をキャメラに収めるために相当な日数粘ったそうだ。N◯Kのドキュメンタリー恐るべし。
だけど、今となっては彼に「感謝」しなければならない。
イン◯タなどで「映える」写真が撮れるようになったのは……
あのとき、彼が教えてくれたおかげなのだから——