フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
紅茶には軟水の方が向いているので、ケトルにはたっぷり空気を含ませた水道水を入れる。
コンロで加熱して大きめのボコボコした泡が上がってきたらすぐに火を止め、きっちり量った人数分の茶葉の入ったティーポットへお湯を注ぐ。
そのとき、できるだけ勢いよく注いだ方が茶葉の香りを引き出すという。
英国王室御用達のアルスターウィーバーズ社のティーマットを敷き、お揃いのティーコージーを被せて急激な温度低下を防ぎつつ、スマホのタイマーを使ってしっかり三分間蒸らす。
時間が来たらティーポットの蓋を開けて、スプーンで一混ぜする。
「……よし、うまく淹れられた!」
試飲して自分の舌でちゃんと確認したのち、お客様用のボーンチャイナのカップに茶漉しを使って丁寧に祁門紅茶を注いだ。
ティーセットは祖母のコレクションからオールドノリ◯ケを選んだ。
味が凝縮されていると言われる「最後の一滴」まで、しっかりと注ぐ。
——紅茶だけは「凄まじい味」からサヨナラしたわよ!
それから、ソーサーをセットしたカップをトレイに乗せてシッティングルームへと戻って行く。
「——どうぞ、お茶でも飲んで一息入れてください」
トレイからオールドノリ◯ケをジョージアン様式のセンターテーブルに移しながら呼びかけると、
「あっ、恐縮です。すいません」
「申し訳ないです」
ロッキングチェアの辺りを撮影していたテレビ局の二人が機材を置いて、わたしの対面にあるロングソファに腰掛けた。
柔らかなカーフスキンが張られたL字型のソファで、大人三人が余裕で座れる。
カメラを構えていた風間も、会釈して彼らの隣に腰を下ろす。
「中国に赴任していた主人が、安徽省の農園に交渉して取引が実現した祁門紅茶です。
そのままの香りを味わうには、ミルクもお砂糖も入れずにお召し上がりになるのがベストなのですが……」
ミルクポットとシュガースティックを差し出しながら説明すると、
「へぇ、そうなんですね。
それなら、もちろんストレートでいただきますよ」
「確かに、素晴らしい香りですよね。
ミルクを入れて損なうのはもったいない」
彼らはみな、何も入れずにストレートで飲んだ。
「——ところで、今回こちらに伺うことになった経緯なんですが……
LEIKAさんは業界の方で解禁前の情報を他言されることはないと思いますので、包み隠さず申し上げますよ」
ひとしきり祁門を味わったあと、企画部長の東氏が改まった口調で切り出した。