フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「——今さら、なんの話があるというのかしら?」
わたしは低い掠れた声で風間に訊いた。
「あのときは……何も説明することができなくて……悪かったと思っている……」
そうなのだ。
あのとき——彼が八坂 今日子と電撃結婚を発表したとき、わたしは彼から何も説明してもらえなかった。
それどころか、つい先日まで通じていた彼の携帯に電話してもいつの間にか番号が変更されていて連絡も取れぬまま……
あれ以来、会うことすらできなかった。
——ご丁寧にも「新婦」である八坂 今日子が、これまでの半生を綴ったというフォトエッセイを発表と同時に出版して「新郎」との馴れ初めを世間に「説明」してくれたけどね!
「あのときは……
わたしはあなたから、完膚なきまでにフラれたはずだけど?」
わたしは永久凍土並みに凍てついた目で、彼を見据えた。
国民だれもがその名を知る、超人気芸能人同士の結婚だった。
そのビッグニュースに、世間はお祝いムード一色に染まって沸きに沸いた。
——ショックのあまり、有給使って職場放棄する人や寝込んで家事放棄する人たちも続出したけどね!
わたしがもし後先考えずに行動していたならば、週刊誌なんかに駆け込んで彼への恨みつらみのいっさいをぶち撒けていたことだろう。
——八坂 今日子は古湖社から本を出版していたと思うから、乗り込むとすればライバル社の文藝夏冬だわね。
だけど……
それこそ、そんな記事なんてスーパースター二人の背景にいる事務所によって揉み消されるに違いない。
今となっては、正直言ってあの頃の一年間くらいの記憶が曖昧だ。
確かに、仕事に追われて気を張っているときはなんとか正気を保っていたとは思うが、ふと我に返ると、つーっと涙が溢れ出て……
眠ると夢の中では決まって幸せだった頃の二人に戻っていて、でも目覚めたらやっぱりわたしだけがたった一人きりで、そしたら耐えきれなくなってベッドに突っ伏して号泣した……
そんなことがあったような気がする。
でも、まるでドラマか映画を観ているみたいに「外側」からぼんやりと眺めている感覚なのだ。
——もしかしたら……
あのとき、わたしの「心」がちょっと壊れたのかもしれない……