フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「おれの方は、所属事務所の顧問弁護士が担当してくれてるんだけどさ。
大手法律事務所の若手エースと言われる菅野弁護士は、同世代だから話しやすいのはありがたいけど、専門は企業の法務だからさ。
離婚の条件面とかで有利な方に持っていけるか、正直言って心配なところがあるんだ」
「……相手側の弁護士は?」
「それが……君島 みき子弁護士なんだ」
テレビのワイドショーなどでコメンテーターとしてお馴染みの「人権派女性弁護士」で、離婚などの家庭問題が専門だ。
——素人目から見ても、かなり不利なような気がするんだけど……
「ま、最悪は向こうの言い分を丸呑みするしかないかな……」
そしたら、今後の芸能活動に支障をきたす恐れはないのだろうか?
「ねぇ……奥さんともう一度やり直すことはできないの?」
わたしの問いに、風間は首を左右に振った。
「結婚後は、お互いますます仕事が忙しくなってさ。
いっしょに過ごす時間なんて、どのくらいあったかなぁ。
それでなくても会話が少なかったのに、どんどん話すこともなくなってしまって……」
そして、ふっと自嘲気味の笑みを浮かべた。
「ある日、今日子から……
『まさか、あなたがこんなに喋らない男だとは思いもよらなかった』って言われたんだ」
彼女にしても、人前ではあれだけ堂々とスポットライトを浴びてキラキラしている風間の素顔がまさかこんなに無口だったとは、夢にも思ってなかったのだろう。
「これ以上無理していっしょにいても、心が疲弊していく一方だからさ。
……おれの方から離婚を切り出した」
——夫婦の間のことは、他人には窺い知れないとは思うけれども……
「だから、離婚したあとのこれからの未来は、何でも言いたいことが言えて、ありのままの自分でいられる——レイカとともに生きていきたいんだ」
「……でも、わたしはあなたと違って、江戸屋のために今の結婚生活を続ける必要があるわ」
小笠原との結婚は、江戸屋と大坂百貨店との「結婚」でもある。
——だれかさんと違って、わたしはそう簡単に離婚できる立場じゃないのよ?
そもそもは風間がわたしの父からの申し出を断ったために、打開策として小笠原との結婚話が——大坂百貨店との合併話が浮上したっていうことを理解っているのだろうか?
——パパが、風間に江戸屋への入社を条件に掲げたのは……わたしが「好きな人」と結婚するための苦肉の策だったのね。
今、初めて気がついた。
そして、もし風間が江戸屋に入社したら「本気で」後継者に育て上げようと……そこまで決意していたに違いない。
なぜなら……
風間にその話をするのに選んだあの老舗の洋食屋は、もちろん祖父母が愛して生前足繁く通ったお店だけれども……
父が母に、さらには兄が義姉に一世一代の申し出をした……
わたしたち家族にとって、大切な思い出に関わってきた場所だからだ。