フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
『あなたこそ、まさか』
この日「夫」となった——小笠原 武尊を、正面から見据える。
『江戸屋の血を引くわたしが、大坂百貨店の家に嫁いであげるからといって、おめでたくも世間一般の皆さまに自慢できる「良妻賢母」になってもらえるだなんて思ってたのかしら?』
『——なんだと?』
小笠原の顔が、一瞬にして険しくなった。
『でも、安心して』
わたしは華やかににっこりと笑ってみせた。
『あなたの言うとおり「江戸屋に生まれた」わたしですもの。
表向き——つまり「ビジネス」としては、しっかりと「妻」の役目を演じるつもりよ。
だけど、裏向き——「プライベート」では今までどおり好きにさせていただくわ。
もちろん、芸能のお仕事も辞める気はないわ』
実は、実家の父からは結婚を機に芸能界からはすっぱりと足を洗うように告げられていた。
——冗談じゃないわよ。
もしかしたら、セレブなミセス枠で「需要」があるかもしれないってのにっ!
この無味乾燥まっしぐらな政略結婚の生贄となったわたしに齎される旨味は、そのくらいしか思いつかない。
『ふん、ウワサに違わぬ女だな。こっちも忙しいからちょうどいい。……勝手にしろ』
小笠原は「ローマ字でGから始まる虫」でも見るかのような目をわたしに向けた。
『ちょ、ちょっと「ウワサ」ってなによ?』
わたしはあわてて訊いた。
——いったい、わたしについてどんなウワサが流れてるっていうのよっ?
すると、そのとき小笠原のチャコールブラウンのスーツから振動音がした。