フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
武田 かおるに会うために、わたしはクラブフロアのプレミアスイートから一階のティーラウンジへと下りてきた。
彼女はすでに窓際のテーブルに案内されていて、わたしは年配のウェイターに「いつもの」を目でオーダーする。
すかさず、彼女が「同じものを」とウェイターに告げた。
ほどなくして、わたしたちの目の前でウェイターが丁寧に紅茶を淹れてくれる。もちろん、英国式だ。
彼女はじーっとその手元を見つめていた。
だけど、わたしにとっては特段めずらしいことではないため、窓の外に視線を移す。
ティーラウンジの窓からも、ベリが浜の向こうに広がる海を眺められる。
クルーズターミナルを目指しているのだろうか、大海原の水平線を大型クルーズ船が航行していた。
ベリが丘港にあるクルーズターミナルには、各国の大型豪華クルーズ船が碇泊している。
ウェイターはわたしと彼女に淹れたてのカップを差し出すと、一礼してすっとその場を去って行った。
カップは英国の老舗陶磁器メーカーであるエインズレイの「コテージガーデン」だ。
わたしの前には「いつもの」真紅のカップとソーサー、そして彼女には抹茶のような深い緑色のそれが置かれていた。
真紅のコテージガーデンを手にしたわたしは、熟練のウェイターが淹れてくれた紅茶を一口味わった。
「いつもの」フォートナム・アンド・メイソンのアールグレイクラシックだ。
ブレンドされた中国紅茶とセイロンティの味わいと共に、ベルガモットの芳醇な香りが口の中にふわっと広がった。
英国発祥のフォートナム・アンド・メイソンは、実はハロッズよりも歴史の古い老舗百貨店なのだが、一般的には紅茶のブランドとして周知されている。
英国人だった祖母の「血」がそうさせるのか、わたしにとってこのアールグレイは妙にしっくりくる味なのだ。
カップをソーサーに戻したわたしは、彼女に尋ねた。
『……それで、お話ってなんなのかしら?』