フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
イギリス人だった祖母を持つクォーターだからか、おかげでカラーリングしなくてもわたしの髪の色は天然のオリーブベージュだ。
その代わりと言ってはなんだが、ヘアカットする前に頭皮全体をマッサージするヘッドスパを特別にお願いしている。
雑誌の撮影では一応ヘアメイクさんも気を遣ってはくれているけれども、それでも朝から晩まで一日何度もドライヤーの熱風にさらされるため髪にとっては過酷だ。
なので、地肌の血行を良くするヘッドスパは「髪の健康」を保つためにも、そしてトリートメントなどのダメージケアへの効果のためにもわたしにとっては欠かせないのだ。
——今は「開店休業」状態だけど、いつでもスタンバイしておくってのが「プロのモデル」なのよっ!
竜生くんは手際よくヘアクリームをわたしの髪になじませると、両手の親指の腹でぐっぐっ…と頭皮に圧をかけながらマッサージしてくれる。
彼もまたエステの三上さん同様しなやかに曲がる第一関節の指をお持ちだ。
「……あぁ、気持ちいい……」
「ありがとうございます。力加減は大丈夫そうですね」
指通りをなめらかにするヘアクリームは季節によって異なるタイプが使われている。
春夏はシュワシュワした炭酸の泡タイプでスペアミントが爽快な「ひんやり」仕様なのに対し、秋冬は柚子などの柑橘系を中心にブレンドされた香りとともにだんだんと「ぽかぽか」してくる温感クリームの仕様だ。
「……あ、そうだ。竜生くんのお兄さんたちはお元気?」
イケメンの真ん前にもかかわらず、あまりの心地よさにガチで寝てしまいそうだったので、わたしは眠気覚ましも兼ねて訊いてみた。
実は、竜生くんの生家は「日本一給料の高い会社」と呼ばれて毎年就職ランキングの上位に入るわが国有数の自動制御機器メーカーなのだ。
『まぁ、僕は気楽な三男坊なので最初から好きなことをさせてもらってますけどね』と迷わず美容業界へ進んだ竜生くんと違って、お兄さん二人は会社の次代を担う「御曹司」として期待されながら育ったそうだ。
ちなみに、彼らは医者になったわたしの兄と同じ中高一貫の名門男子校出身である。
もっと言うと、わたしが大学在学中の頃、彼らのうちのどちらかとお見合いする羽目になるところだった。
彼らが歳の離れたわたしの兄よりもさらに年上だったことから、幸いにもその話は流れたのだが。
「すぐ上の兄貴は相変わらずですよ。実家の会社でがんばってます。……あ、この前下の子が生まれたんですよ」
「えっ、そうなんだ。おめでとう」
結局は、次男坊の蒼生さんだけが入社したとのことだが、家業を継ぐであろう彼が順風満帆で何よりだ。
「幸生さんも相変わらずなんでしょ?」
わたしはさも当然のように尋ねた。
すると、竜生くんのマッサージの手がぴたりと止んだ。
「いちばん上の兄貴は——同棲していた『彼女』の家から出ました」