フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
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数日後、信じられないことが起こった。

母の「お願い」を速攻で聞き入れた父が、うちへ届くはずの「おうちで簡単!行列に割り込めるシェフの味」シリーズをいきなりストップさせたのだ。

だったら、小笠原に頭を下げて直接買ってきてもらうことも考えたが……

——なんだか、癪に障るのよね!

それでなくても彼ばかりが動いているのだ。

これ以上、向こうに主導権(イニシアチブ)を取られたくない。

しばらくはストック分があるにしても、いずれはわたし自身でなんとかしなければならないし……


わたしは一階の奥にあるキッチンに行って、ダークブラウンの食器棚(カップボート)の前に立った。

軽井沢からいっしょに移築した家具だそうで、もしかしたらこの洋館を建てた英国人がわざわざ海外から取り寄せた物かもしれない。

少し開けづらくはなっているものの、一枚板の(オーク)の扉が見事だ。

その扉を開けると、母が言っていたとおり下段に祖母が生前に書き記したノートが何冊かあった。

そのうちの一冊を手にしてパラパラ…とめくると、祖母が描いたイラスト入りで丁寧に料理の手順が書かれていた。

けれども……

——英語なのよねぇ……

ほとんど日本語を話せなかった祖母と意思疎通をはかるために、一応日常会話とそれに即した読み書きは覚えさせられたが、わたしにとっては外国語であることに違いないため……めんどくさい。

とはいえ、今まで学生時代の調理実習以外に料理などしたことのないわたしには、レシピがないと手も足も出ない。

「さて……どのメニューにするかな?」

幸いなことに、祖父から贈られて祖母がお気に入りだったパーカーの万年筆で書かれた文字は筆記体ではない。

たぶん娘であるわたしの母が読みやすいように、と配慮したのだろう。

そういう女性(ひと)だった。


その後、わたしは一つのメニューを選んだ。

「さぁ、大正屋にお買い物に行かなきゃね」
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