フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「あら、だって、美味しいからって勧めてきたのはあの人なのよ?
それに、大坂江戸屋百貨店のオンラインショップからのお取り寄せだから、ちゃんとうちの稼業に『貢献』してるわよ?」
『だからって、そんなもの毎日食べてるなんて信じられないわっ!』
普段は穏やかな母から、すごい剣幕で遮られた。
——『そんなもの』って、自社開発「おうちで簡単!行列に割り込めるシェフの味」シリーズは、めちゃくちゃ売れてるヒット作なんだけどね。
『あなたも武尊さんも今からそんな不摂生をして、歳をとってからの身体や健康のこと考えてるの⁉︎
今日食べた物が明日の身体をつくるのよっ‼︎』
料理を愛し「健康で長生きするためなら死ねる!」という母の地雷原へ向かって、どうやらバンジージャンプしてしまったようだ。
ものすごい勢いで炸裂したとなっては「触らぬ母にお小言なし」だ。
——かくなる上は一目散に撤退しよう、そうしよう。
「わ、わかったわ、ママ。じゃあ、また連絡するわね……」
『——確か……キッチンのカップボードに、おばあちゃまが遺したレシピのノートがあったはず……』
今度こそ通話を切ろうとしたわたしに、母がポツリとつぶやいた。
——ま、まさか……
「ママ……わたしにおばあちゃまのレシピを見てお料理しろって言うんじゃないでしょうね……?」
『おばちゃまのお料理は、英国の家庭料理よ。
そんなに手間暇かけてつくるものじゃないわ』
「無理よ、ママ! わたしにできるわけないじゃんっ⁉︎」
わたしはロッキングチェアから起き上がり、ムンクの顔になって叫んだ。
『そうかしら? いい機会だし、やってごらんなさいな。
最初からダメって決めつけていたら、上達するものもしなくなるわよ』
「う、ウソでしょ……⁉︎」
——このわたしが料理をつくる、だなんて……
『我ながら、ナイスアイディアだわ!
早速、パパに言ってオンラインショップからのお取り寄せを停止してもらいましょう。
お料理に使う材料などはノースエリア内に大正屋があるから、そこでお買い物なさい。
買った物はおうちまで配達してくれるから、車がなくても大丈夫よ』