フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
『——おはようございます、LEIKAさん。
たびたび申し訳ありません』
「おはようございます。お疲れさま、村田さん。気にしなくて大丈夫よ」
折り返しかけた今の時刻はそろそろ夕闇迫る頃だが、わたしたちの業界の挨拶は何時であれ「おはようございます」だ。
諸説ありの話だが、どうやら歌舞伎の世界での挨拶から来ているらしい。(と、歌舞伎俳優の娘として生まれたモデル仲間から聞いたことがある)
現代と違って灯りの乏しかった江戸時代は、日没の暮れ六つ(午後六時)までには演目を終わらせる必要があったので、芝居小屋は明け六つ(午前六時)には客入れをしていたという。
お客さんがそんな早朝にやってくるのだ。
支度をしなければならない役者と裏方は、さらに早く来なければならない。
夜が明けずまだ真っ暗闇の中「出勤」してきた役者に対し、裏方が労って「お早いお着きでございます」と声をかけていたのだそうだ。
それが「おはようございます」の所以とされる。
『……それで、LEIKAさん、この前の件のことなんですけど』
「あぁ、テレビ局のクルーがロケハンに来るお話ね」
応接間でロッキングチェアを前後に揺らしながら、わたしは応じた。
『はい、そうです。
先方からロケハン日のご提案がありまして、もし今から申し上げる中にLEIKAさんのご都合の良い日時がありましたらおっしゃってください』
「わかったわ。……ちょっと待ってもらえる?」
ロッキングチェアの揺れを止めて起き上がったわたしは、スケジュールを確認するために傍らのサイドテーブルに置かれたiP◯d miniへと手を伸ばした。