フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
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今日は、テレビ局の撮影クルーがこの家を下見するためにやってくる日だ。
応接間にある大きな柱時計の時刻は九時過ぎだったから、約束の十時まで一時間近くある。
彼らが訪れる前に、お庭の草木に「本日の水遣り」を終えておかなければならない。
英国の田舎風ガーデンは自由気ままに植え付けしているように見えて、実は「きっちりと計算」がされている。
敢えてそうすることで、いかにも田舎にありそうな植物が伸び伸びと育つ「自然な」庭を造っているのだ。
この洋館のお庭も一見ランダムに植樹されていると思わせておいて、実際はガーデンデザイナーが季節に沿ってタイミング良くお花が咲くように想定し、専門の造園業者が植栽・除草・剪定などをやってしっかりと管理している。
ところが……
『家にいても料理しかしないのなら、毎日ヒマだろ? だったら、せめて庭木の水遣りくらいすればどうだ?』
と、小笠原の一声で(ムカつくがそのとおりなので)仕方なくわたしが水遣りをする羽目になった。
小笠原はエラそうに『水遣りくらい』と簡単に言うが、なかなかどうして「奥が深い」。
最初の何日か業者の人に来てもらってレクチャーを受けたのだが、植物に対してこんなに水の遣り方に注意しなければならないとは思いもよらなかった。
何でもかんでもホースからの水をバシャバシャかければ良い、ってものではないのである。
特に、亡き祖母が愛した裏庭のローズガーデンには気を遣う。
薔薇の木に水が必要なのは、ほぼ根本部分だけだそうだ。
花びらに水をかけてはいけないのはなんとなくわかるけれども、まさか葉も避けた方がいいとは……
しかも、十一月から二月くらいの冬場にかけては、うちのお庭に植えられた品種はその根本部分ですらほとんど水を遣らなくていいという。