フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
ゲネプロで舞台上に立った彼は、以前にはカケラもなかったはずなのに、神々しいまでの眩い光を四方八方にこれでもかと放っていた。
いわゆる「芸能人のオーラ」だ。
そこにいるだれもが、この世の者とは思えぬほどキラキラと輝く彼の一挙手一投足から目が離せず、その抗えぬ魅力に吸い込まれるかのごとく惹きつけられている。
いつの間にか「太陽」である彼を中心として、他のモデルやスタッフが演出プランという軌道を回り始める中……
けれどもわたしだけは一人、幕間から彼を胡乱げに見つめていた。
——あれから彼に何があったかは知らないけど、こんなふうにガラッと変わるだなんて……
不穏な影を気配で感じたのか、彼が幕間に目を向けた。
二人の視線がぶつかった。
すると、彼がゆっくりとわたしのいる暗がりへと歩いてきた。
——えっ、なになに? どうしたの?
周囲の目線もまた、彼とともにわたしに向かって移動するのがわかった。
まるでピンスポットが追いかけてきたかのように、暗い幕間に彼の煌びやかな光が差す。
『……ひさしぶりですね。LEIKAさん』
右手を差し出しながら、彼がわたしの目をじっと見つめて言った。
心地の良い、低めの声だった。
——この人、こんなに素敵な声だったっけ……?
『こ、こちらこそ、おひさしぶりです。……風間さん』
わたしを覚えていたことに驚きつつ、またなぜ彼と握手をするのかもよくわからないまま、わたしも右手を差し出した。
不覚にも、拒むには憚られる空気にのまれて、彼としっかりと握手をしてしまう。
確かに、さすが短期間で「抱かれたい男」になっただけのことはある。
いつどのように身につけたのか、彼からは匂い立つほどの「色気」が生じていた。
——実際には、オードパルファムの香りの所為でもあるんでしょうけど……
彼は、どんな男も女も老いも若きも魅了する「人たらし」だ。
——こういう男を好きになっちゃったら、身も心もボロボロになっちゃいそうだなぁ……
そう思って、この人とは絶対に恋に堕ちたりしないと心に決めたのを……
今でも忘れずに覚えている。