フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
——にもかかわらず……
わたしはまんまと彼と恋に堕ちてしまった。
華やかな彼にエスコートされて、観客の大歓声の中で初めての花道を歩き切ったわたしは最高潮に浮かれまくっていた。
モデルとしてこの世界に入ったからには、ファッションショーで「歩く」というのが夢であり目標であった。
それは、雑誌モデルでスタートした彼にとっても同じだったに違いない。
舞台裏に下がったわたしたちは満面の笑みでハイタッチしたあと、どちらからともなくハグをした。
しかし、すぐにそれぞれの楽屋に戻って着替えをしてまた舞台に戻らなければならない。
なのに……
『——携番を教えてくれないか?』
なかなかハグを解いてくれない彼が、耳元で携帯番号を訊いてきた。
当時はL◯NEが普及し始めてはいたけれど、まだまだ携帯での遣り取りが多かった。
びっくりして思わず彼を見返すと、見る者すべての心を射止める——そんな目で真正面から見つめられた。
わたしには……彼の頼みを断るなんてことはできなかった。
限りなく小声で、しかも早口で自分の携帯の番号を告げた。
それが、ささやかな「抵抗」だった。
だけど……
『覚えた』
そう言って、わたしの小声と早口だった携帯番号を完璧に「再現」した。
『この仕事が終わったら、おれの携帯でその番号にかけるから登録してほしい』