フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
これがきっかけとなり、あっという間にわたしは彼に「陥落」し、付き合うこととなった。
今から思ってもかなりのチョロさだったと思う。
当時の彼はドラマに映画に雑誌にCMに——とにかく殺人的な忙しさだった。
わたしもその頃は専属の雑誌があってモデル業が充実していたから、やはり忙しかった。
二人のスケジュールが合う日を待ち侘びて、たとえ数時間であってもわたしたちは会っていっしょに過ごした。
ところが……
「現場」ではあんなにキラキラとしただれもが崇め奉る、まさに星だったのに。
二人で過ごすプライベートでの彼は、まったくオーラを感じさせない「普通の青年」だった。
千葉の南房総で生まれ育った彼は、地元では伝統校と言われる公立高校を経て、M大商学部に進学するために上京してきた。
——公認会計士を目指していたくらいだから、数字に強くて携番を覚えるのは得意だったみたいね。
さすがに地元での中・高時代はモテにモテまくったようだが、東京に出てきたとたん「ちょっとカッコいい人」程度に成り下がってしまった。
なので、芸能界で成功して生き抜いてゆくために急ピッチでかなりの「自己改造」をしたらしい。
けれども、気を抜くとたちまち「素」に戻ってしまうようだ。
ということは……
やはり雑誌の撮影で初めて出逢ったときの、あの「華」のなかった彼が「本来の姿」なのだ。
『やっぱり……レイカには通用しないな』
彼がぼそり、とつぶやく。
その顔は自虐気味にフッと笑いつつも、どこかホッとしたような笑みにも見えた。
でも……
いつの間にか、わたしはそんな「素朴な」彼の方を好きになっていた。