君の手が道しるべ
月曜の朝、私は内心びくびくしながら営業室のドアに手をかけた。

 金曜の夕方、歩道に取り残された梨花の姿が、週末を経たことで私の脳内では恐ろしい妖怪並みにデフォルメされてしまっている。

 金曜日はあのレストランでおいしい食事を食べたあと、私のよく行くバーに行きお酒を飲んだ。

 仕事の話は結局あれ以降一切出ず、私と大倉主査はそれ以外の話題でとても気が合うことが判明した。好きな音楽や好きなマンガ、撮りだめしては週末に見ているテレビ番組。

 あまりに盛り上がって終電を逃してしまい、家まではタクシーで帰ったのだけど、大倉主査は自分が誘ったのだからといって譲らず、タクシーに同乗して私のマンション経由で帰っていった。タクシー代も折半を申し出たが、一円も受け取ってはもらえなかった。

 ――ほとんどデート、だよなあ。

 金曜日のあれこれを思い出すたび、そんなふうに考えている自分に気づいて困惑する。図々しくも、大倉主査が私に気があるんじゃないかと都合のいい解釈をしてしまいそうになる。

 もちろん、そんなの、思い過ごしでしかない。どう考えたって大倉主査が私に好意をもつはずがない。そう言い聞かせて、私は気持ちを切り替えた。すうっと息を吸ってドアを開ける。

< 37 / 102 >

この作品をシェア

pagetop