君の手が道しるべ
予想外の申し出に私は一瞬あわてたが、すぐに気を取り直し、

「それはもちろん、かまいませんけれど……藤柳がなにか失礼なことでも……」

「ああ、いえいえ。そういうわけではないんですがね。ちょっと折り入ってご相談したいこともありまして、ぜひ、永瀬さんに聞いていただきたいと思いましてね」

 いったい何を相談されるのか見当もつかなかったけれど、太田さんがわざわざ私を指名してくれたのだ。

 それが本当は梨花へのクレームだったとしても、行かないわけにはいかない。私は受話器を握り直し、少し息を吸った。

「承知いたしました。お伺いいたします。いつ頃お伺いすればよろしいでしょうか?」

「永瀬さんの都合がいいなら、今からでもかまいませんよ。私は今日一日暇なものでね。できればゆっくりお話ししたいと思っているんですよ」

 私は空いている右手でスケジュール帳を確認した。珍しく誰の帯同も入っていない。今日なら太田さんとゆっくり話ができそうだ。

「では、これから伺いますのでよろしくお願いいたします。……はい、のちほど」

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