君の手が道しるべ
夕方、静かになった営業室に内線電話の呼び出し音が鳴った。
栞ちゃんや梨花は30分ほど前に退社していて、今、営業室に残っているのは、業務課の課長と私の2人だけだ。
私のデスクの電話に赤ランプが点灯している。
「——はい、永瀬です」
「お疲れ様です。大倉です」
大倉主査が内線をかけてくることは滅多にない。少し驚きながらも、「お疲れ様です」と決まり文句を返した。
「今、大丈夫ですか」
電話越しの大倉主査の声がいつになく硬い。
「かまいませんけど、どうかしましたか?」
「ちょっと話がしたいんです」早口で大倉主査は続ける。「店の中ではあれなんで。ちょっと、外で話せないかと思って」
「……あの、池田産業さんの件だったら、別に気にしてないですから」
つとめてゆっくり、穏やかに聞こえるように答える。
思ったとおり、大倉主査の用件はそれだったらしい。彼にしては珍しく、声に動揺がにじんだ。
「そういうわけには……」
「ほんと、いいんです。気にしないでください」大倉主査の言葉をさえぎって、そう答えたが、大倉主査は引き下がらなかった。
「いえ。ちょっと話したいんです。今夜8時に、前に行った僕の友達の店で。お願いします」
一方的にそれだけ言って、内線は切れた。
栞ちゃんや梨花は30分ほど前に退社していて、今、営業室に残っているのは、業務課の課長と私の2人だけだ。
私のデスクの電話に赤ランプが点灯している。
「——はい、永瀬です」
「お疲れ様です。大倉です」
大倉主査が内線をかけてくることは滅多にない。少し驚きながらも、「お疲れ様です」と決まり文句を返した。
「今、大丈夫ですか」
電話越しの大倉主査の声がいつになく硬い。
「かまいませんけど、どうかしましたか?」
「ちょっと話がしたいんです」早口で大倉主査は続ける。「店の中ではあれなんで。ちょっと、外で話せないかと思って」
「……あの、池田産業さんの件だったら、別に気にしてないですから」
つとめてゆっくり、穏やかに聞こえるように答える。
思ったとおり、大倉主査の用件はそれだったらしい。彼にしては珍しく、声に動揺がにじんだ。
「そういうわけには……」
「ほんと、いいんです。気にしないでください」大倉主査の言葉をさえぎって、そう答えたが、大倉主査は引き下がらなかった。
「いえ。ちょっと話したいんです。今夜8時に、前に行った僕の友達の店で。お願いします」
一方的にそれだけ言って、内線は切れた。