君の手が道しるべ
見つけたもの。
一年後の月末。

 いつものように降りていくシャッターを、私は少し切ないような思いで自席に座って眺めていた。

「終わりましたね、調査役」

 いつの間にか隣に立っていた栞ちゃんが、人懐っこい笑顔を浮かべる。

「——そうね。終わっちゃったね、ついに」

 私もそう答えて微笑む。

 私にとっての——銀行員としての私の、最終営業日。

 シャッターが降りて、いつものように電気のスイッチを切り、有線のスイッチも切る、この作業も今日で最後。

 いつもなら机の上には目を通さなければならない書類が山積みの時間だけど、今日の私の机には書類一枚上がっていない。日中に引き継ぎできるものはすべて済ませてあるし、今後の業務のために残すべき書類以外は全部シュレッダーに突っこんでしまった。

 その作業を手伝ってくれたのも栞ちゃんだった。今日の私がいるのも、あの日、栞ちゃんが私にくれた強制的有休のおかげだ。

 自分はどうしたいのか。
 どんなふうに人生の舵を取りたいのか。

 あのときほど私は、自分の人生について考えたことはない。会社に入ってからずっと、流されるように仕事をして、いつの間にかやりがいもなくしていた。仕事に対して意味を見いだすこともできず、かといってそこから飛び出す意地もなく、ただ惰性のように毎日を過ごしていた。

 大倉主査との出逢いは、そんな惰性の中に突然放り込まれた「障害物」だった。

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