この空を羽ばたく鳥のように。
けれども母上は、それを挑まれた勝負のように感じたのか、眉間にシワを寄せた。
「……わが家でも、次のお彼岸は砂糖を多めにして、もっと甘くしたほうがいいかしら?」
うちでこしらえるぼたもちは、ほんのりとした甘味と塩味がきいている。
私達には慣れ親しんだ味だから それが当たり前になっているのに、母上がまるで張り合うようにおっしゃるから、私達は顔を見合わせて笑ってしまった。
「母上、うちはこれでいいじゃないですか!」
笑いながら私が言うと、喜代美も同じとばかりに首肯する。
「そうですよ、母上。私は母上の作るぼたもちの味が好きなのです。無理に変える必要なんてありませんよ」
麗しい笑顔の愛息に言われてはひとたまりもない。
たちまち母上のご機嫌は直った。
「そう?喜代美さんがそう申すのなら、わが家はこれからもこの味でいいかしらね。
さあ!私はいただきましたから、喜代美さんも早くお食べなさいな」
「はい。それではいただきます」
母上が再び勧めると、今度は喜代美も箸を取る。
母上はその箸の行方を注視する。
喜代美が最初に取るのが、どちらのぼたもちなのか気になるのだ。
養母としては、実母に負けたくないという思いがあるのかもしれない。
(そんなこと心配しなくたっていいのに。
今しがた、母上のぼたもちが好きだと言ったばかりじゃないの)
そんな母上の姿を横目で見ながら苦笑する。
向かいの席から喜代美の箸が伸びてきた。
(さあ勝利するのは、養母か実母か?)
……なあんて、どちらを選ぶかなんて分かりきっているのにね。
笑いをこらえながら箸の行方を見守っていると、
喜代美は迷いもせずに 私の目の前のいびつなぼたもちを取りあげた。
※首肯……うなずくこと。納得して賛成すること。
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