この空を羽ばたく鳥のように。
 



……そうなのかな。

私は八郎さまを拒みながらも、心のどこかで惹かれていたのかな。



八郎さまのお顔を思い浮かべる。

私が見てきた、さまざまな彼の表情を。

そうすると、胸の中に戸惑うような、不思議な感情が沸きあがる。



これが恋だったのだろうか。



想いは嘘だったと聞かされたとき、心寂しいと感じたのも、もしかして彼に惹かれていた部分がそうさせたのかもしれない。





――――彼も私と同じだった。



喜代美を羨んでしまう己が厭わしくてたまらなかった。



嫉妬と情愛のはざまで苦しんでいた八郎さまの姿は、私の心そのまま。



そういう意味で、八郎さまと私は同類だった。





もしかしたら私達は、心を通わせ合うことがあったのかもしれない。

そしていつも私を見つめていた喜代美は、そのことを敏感に察していたのかもしれない。



けれどそれはお互いを補い合うものではなく、お互いの傷を慰め合うだけのもの。

喜代美を求める心とは違う。










※情愛(じょうあい)……思いやりのある深い愛情。



< 229 / 565 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop