この空を羽ばたく鳥のように。




 私はゆっくりと首を振った。



 「たとえそうだとしても、私の心の赴く先は八郎さまじゃない。喜代美なの。
 あの方もそれをご承知だったから、私に喜代美を託してくだされたの」



 私には分かっていた。

 別れ際に残した八郎さまの言葉は、弟をよろしく頼みますとの想いが込められていた。
 私は八郎さまの分まで、喜代美を助け、見守り続けなければいけないんだ。



 「約束するわ。私はずっと喜代美のそばにいる。どんなときでも一番の理解者になる。
 そして一緒にこの家を守り繋いでゆくわ」



 まっすぐ見つめて、決意の強さを声に表す。

 喜代美も静かに見つめ返した。
 いつのまにか動揺する様子は消えてなくなり、その表情に穏やかな落ち着きを取り戻している。



 「兄上から託されたのは、私のほうです……。八郎兄上は私にあなたを託してゆかれた……」



 つぶやいて、今度は私の頬に喜代美の両手が伸びる。
 私の瞳をしっかりと捉えて、彼は深い感慨をまなざしに込めた。



 「私でも、あなたを幸せにできるのですね」



 応えるように、頬に触れる手に自分の両手を重ねて笑う。



 「違うよ。私を幸せにできるのは、喜代美だけなの」



 喜代美の黒く大きな瞳が艶やかに潤む。
 頬にかかる手を離すと、両の手を私の背にまわした。
 躊躇のない力で、強く抱きしめる。



 「……約束します。八郎兄上の分まで、あなたを幸せにします」



 感極まる言葉に、幸せに胸を震わせながら小さく応えた。



 「うん……約束よ……」










 ※感慨(かんがい)……心に深く感じて、しみじみとした思いになること。


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