この空を羽ばたく鳥のように。




 喜代美は覚悟を決めた。
 私も自分の覚悟を決めなければならない時が来たのかもしれない。
 たとえこれからどんなことが起ころうとも、まっすぐ前を見据えてゆく覚悟。

 その心を定めるために、まずやり遂げておきたいのは――――。



 雨が降りしきるなか、傘をさして出かける。
 決意に満ちた唇をかたく引き結ぶ。
 一歩一歩、足取りを確かに歩いてゆく。

 そして穴澤流宅稽古場に着くと、ゆっくり引き戸を開け奥に声をかけた。



 「ごめんくなんしょ。よろしくお願いします」



 最近は武家の子女達のあいだにも危機感が高まってきたのか、それともやはり大切な人を戦で失い、やり場のない怒りと悲しみを仇討ちという形で慰めようというのか、しばらく来ないあいだに稽古場には鍛練に訪れる婦人で溢れていた。



 「さよりさん……!まあ、よくおいでくださりましたわ!」



 私を見つけて駆け寄ってきてくれたのは、竹子さまの妹の優子さん。



 「しばらく足が遠のき、申し訳ございませんでした」



 八郎さまの訃報があってから、めっきり稽古に出なかったことを詫びると、彼女は「いいえ」と首を振り、心配そうに表情を曇らせた。



 「人づてにうかがいましたわ。ご親戚の方を亡くされて大変だったと……お悔やみ申します」



 頭を下げる彼女に、私も首を振って返す。



 「その痛みは皆さんも同じはず。お気遣いは無用です。
 それより久しぶりに私も稽古にまぜていただけないでしょうか」

 「もちろん歓迎しますわ。さあどうぞお入りになって」



 優子さんに促されるまま道場の奥へ足を踏み入れると、それを見かけた竹子さまが私の前に進み出てきた。



 しばらく稽古に顔を出さなかったことに対して、どれだけ嫌味を言われるかと覚悟していたのに、
 竹子さまは文句を口にすることもなく、ただ「早く準備なさい」とそっけなくおっしゃっただけだった。



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