この空を羽ばたく鳥のように。


 納得できずに黙り込む私に、彼女は気丈そうな(まなじり)のつり上がった目をまっすぐ向けて問うた。



 「この危急に、あなたはどうして入城したの?」

 「それは……」

 「避難するためでしょ。城へ逃げ込めば、命が助かると思って」



 挑発するように嘲笑されて、ムッとする。



 「それは違うわ!私は戦いに来たの!この国を踏みにじる(やから)に、一矢でも報いたくて!
 それに、あるお方とお約束したの。いざ敵が攻めて来たら、一緒に照姫さまをお守りいたしましょうと」


 そう―――竹子さまと。


 照姫さまの御名を出すと、彼女は笑みを消した。



 「あら勇ましいこと。けれどあなたのような心の弱い方に、照姫さまをお守りいたすことなどできないわ。
 照姫さまはわたくし達、奥女中の者がしっかりとお守りいたします。
 可哀想だけど、あなたの出番はないわね」

 「……!」



 その時初めて、この()が奥殿に仕える女中だと分かった。
 上品なお着物も、立ち居振る舞いを見ても得心がいく。



 「それにあなたは戦いに来たと申すけれど、薙刀で敵に斬り込むつもりでいたのかしら。
 だとしたら、命を捨てにきたってことでしょう。
 あなたは自身が死んだのち、自分の死を悲しんで、手厚く葬ってもらいたいの?」



 言われて、困惑する。



 べつに手厚く葬ってほしいとは思わない。
 ただ、私が死んだことを、家族に―――喜代美に報せてほしい。


 そう考えて、ハッと気づく。
 先ほど命を終えた藩士も、私と同じ思いなのではないか。



 (この娘は、私にそれを気づかせたかったのかしら)



 あらためて彼女をまじまじと見つめる。
 彼女のほうもジッと私を見つめていたけれど、表情から理解したと読み取ったのか、彼女はふっと笑った。



 「戦う場所はいくらでもあるわ。城内すべてが戦場よ。
 もしわたくしが死んだら、亡骸はその場に打ち捨てておいて構わないわよ」



 そんな軽口を言って背を向けると、彼女は大書院へ戻ってゆく。

 その背中を見つめて、私は両手で自分の頬を二・三回(たた)いた。
 小気味よい音が耳を打つ。目の覚める思いだった。


 悲しみに くじけたりしない。
 どんなつらいことも耐えてみせる。

 だってきっと、喜代美も頑張っているはずだから。



 「よし……私だって!」


 気合いを入れるとたすきを縛り直し、彼女の背を追って大書院へ足を踏み入れた。










 ※()()てる……構わないで、ほったらかしにする。手をつけずに、ほうっておく。


< 351 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop