この空を羽ばたく鳥のように。



 九月十七日。この日、会津軍の補給経路を完全に断とうと、再び西軍が攻め入ってきた。

 朝五ツ(午前8時)頃、一ノ堰村や河原に布陣していた会津軍を、大軍が北と西から挟み討ちして攻めた。
 会津軍も、ここを占拠されては補給経路が遮断されてしまうため、必死で防戦した。



 「ですがこの日の戦闘は、一昨日(おとつい)とは何もかもが違っておりやした」



 ――――わが軍は、十五日に多くの指揮官を失っていたため、統率が充分にとれてなかったんです。そこへ砲弾や小銃が雨霰と降ってきやす。
 各隊は隊伍を崩され、個々散りぢりになって退()きながらも戦いやした。

 伊与田隊も同じで、隊長の指揮下のもと戦いやしたが、その隊長である伊与田さまが(たお)れてしまい、あとを引き継いだ武石小隊頭が指揮するも、兵は冷静さを欠き、隊としての機能が失われつつありやした。

 銃撃を避けるため、分散して一軒の民家に潜んだわしらは、他の兵士とともに吶喊(とっかん)する機会をうかがっておりやしたが、時が経っても敵の銃撃は凄まじく、槍や刀ではとても太刀打ちできやせん。

 こちらの銃士も必死に銃弾を浴びせやしたが、他勢に無勢でした。
 このままでは敵に取り囲まれるのも時間の問題、と焦りが見え始めたとき、源太さまが進言したんです。



 『武石さま。銃隊の弾薬が尽きてしまう前に、我々槍隊が民家の裏を抜けて敵の脇を突きましょう。そうでなければ突破口は開けませぬ』



 その提案に頷くかと思いきや、武石小隊頭は源太さまに向かって、苛立ちながら一喝しやした。



 『黙れ!貴様の如き軽輩が口に出すことではないわ!』

 『なっ……!』



 その暴言にカッとなりやした。
 生きるか死ぬかの瀬戸際で、身分もクソもあるもんか!って。

 思わず文句を言おうとしたら、となりにおられた源太さまが、わしの腕をグッと掴み首を振りやした。逆らってはならぬとの制止でした。

 この切迫した状況下で、さすがに源太さまの目にも、怒りと焦りの色が浮かんでやしたが、黙ってそれをこらえているようでした。



 (……クソッ!)



 わしも怒りを抑えるために拳を握りしめると、津川さまが不機嫌な声でおっしゃいやした。



 『じゃがその軽輩の申す通り、このままでは袋の鼠になるだけじゃぞ。(にし)は何ぞ他に良い策があるとでも申すのか?』

 『うぬ…それは……!』



 津川さまの言葉に、武石小隊頭が反論できずにいると、そばにおられた山本権八さまというお方も口をそろえやした。



 『さよう。今は言い争っている場合ではない。この者の申す作戦にひとつ乗ってみようではないか。指揮は小隊頭どのにお任せすればよい』

 『う……うむ。承知いたした』



 津川さまと山本さま、ご年輩のおふたりに言われて、それより年若い武石小隊頭は苦々しい顔で頷きやした。



 (ケッ!そうやって最初から、素直に頷いてりゃよかったんじゃ!)



 腹ン中で毒づいてとなりを見ると、わしの考えなど見越してるかのように、源太さまが苦笑しやした。

 とにかく源太さまの作戦に賛同した兵とわしらは、武石小隊頭の指揮のもと、密かに民家の裏を通り、茂みに身を隠しながら敵方の側面へ回り込みやした。



 『よいか、敵の銃士が一斉(いっせい)に射撃した直後に斬り込むのだ』



 様子をうかがいながら武石小隊頭がおっしゃいやした。
 いよいよ正念場だと、闘志を奮い立たせて刀の柄を握る手には汗が滲みやした。
 そんなわしに、源太さまが顔を近づけて小声でおっしゃったんです。



 『九八。お前はここから出るな』

 『えっっ⁉︎ 』

 『決して出てはならぬ。よいな』

 『………!』

 『そばにいてくれたお前には、感謝しているのだ。だから死んではならぬぞ』

 『げ……!』



 今にして思うに、この時 源太さまには、何か感じるものがあったのでございやしょう。

 わしに向けて微笑むと、すぐに表情をひきしめて前を見据える源太さまに、声をかけようとしたとき、敵の銃隊が味方の銃隊に向けて一斉射撃を行いやした。



 『今だ!皆の者、突撃―――ッッ!』

 『おお―――ッ‼︎ 』



 たくさんの破裂音で耳が聞こえにくくなるなか、武石小隊頭の命令が下りやした。源太さまや津川さまを始め、玄武隊の皆さまが雄叫(おたけ)びをあげて敵陣に踊り込みやした。

 出鼻をくじかれたわしは、ひとり飛び出すこともできず、呆気にとられながら茂みの中で皆さまの戦いを見つめておりやした。



 (源太さま……‼︎ )



 目の前の敵に集中していた西軍のやつらは、いきなり脇からの急襲に(きょ)()かれ、弾を込める間もなく逃げまどってこちらが優位に見えやした。しかし敵も大勢抜刀して向かってきたので、たちまち混戦になりやした。

 わしの目は源太さまに釘づけで、その鮮やかな槍捌(やりさば)きに見惚れるほどでした。
 しかしこちらは少人数で見る間に劣勢かと危ぶまれたところ、天の助けか、反対側から敵を挟むようにお味方が加勢に来られたんです。



 (ああ……!)



 掲げられた隊旗に、それが最強部隊と聞かされていた朱雀士中四番隊だと分かりやした。
 その中に高橋金吾さまのお姿も見えやした。

 お味方の加勢に勢いづいたわが軍に、白兵戦では勝てないと判断したのか、西軍のやつらは逃げ出すように退却しはじめやした。



 『逃がすな!追え―――っ!』



 先頭きって駆け出す武石小隊頭に従い、勝ちに乗じて追撃しようとお味方の兵が駆けるのを見て、歴戦をくぐり抜けてきた高橋さまが感づいて叫びやした。



 『深追いしてはなりませぬ!敵の罠かもしれませぬぞ!』



 しかしその声は届かず、すでに十数人が駆け出しておりやした。
 そしてその中に、津川さまのお姿もあったのでございやした。


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