雪の光
「なに怒ってんだよ」
最寄り駅の改札を抜けると声をかけられた。
この憎まれ口。
だけど、それが今の私をすっと落ち着かせる。
「……何?」
「カリカリしてるとか、珍しい」
「別に怒ってないから。
ご心配ありがとう」
こんな口利くつもりじゃないのに。
素直に、うん大変なんだって言えばいいのに。
「お前本当に素直じゃないよな」
「……素直とか、よく分からない」
「まあ、俺もそうなんだけど」
「なのに彗は問題なく過ごせているよね」
「俺はふたつの顔を持っているから」
「使い分けるのが大変そう」
静かな住宅街に入る。
いろんな家庭の夕ご飯の匂いが混ざっている。
「慣れだよ、慣れ」
「慣れてる暇あったら感情を理解することに時間を割けばいいのに」
「そんなの一生分かんねえよ」
「……そうだね」
彗は不思議だ。
一般的に考えればおかしい意見にも妙に納得してしまう。
少しだけ陽が延びた夜の街を2人で歩く。