月は紅、空は紫
「そういえば――クスノキの噂を聞いたら、どこに伝えに行けば良いのだ?」

 ふいに、かつメジロから話題を少し遠ざけるために、清空は話題を変えた。
 殺す、殺さないという物騒な話から距離を置いて、清空自身も少し考えてから返答をしたいという事もあったし、一つ――疑問もあった。

 その疑問とは『イシヅキがどうやって清空の家を訪ねて来たのか』である。
 清空とイシヅキが接近したのは、メジロと戦ったあの夜だけである。
 あの夜、イシヅキは逃げたメジロを追い掛けて行き、清空は逃げるように長屋に帰った。
 仮にイシヅキがあの夜に清空の後を追い掛けて来ていたのならば、その時にこの話を持ちかけてきただろうし、わざわざ間を置いて訪ねて来る意味が無い。
 あの夜に後を尾けて来ていなかったからこそ、日にちを置いた今夜に訪ねて来たのであろう。
 真相を直接尋ねてみても良いのだが、清空はまだそこまでイシヅキを信用できているわけでもなかった。
 なので、イシヅキが根城にしている場所を探ることによって遠回しに清空のすんでいる場所を突き止めた経緯を知ろうと考えたわけである。

「四条の通りに、壬生寺という寺院がございます。普段はその中にある壬生塚の橋のたもとに居りますので――何かあれば、そちらで伝えていただければ」

 イシヅキは警戒する様子も無く、自分の根城を清空に教える。
 結果として、清空の疑問は解消されることもなく、清空は結局イシヅキに彼が清空の事をどのように調べてやって来たのかを尋ねる事にした。
< 174 / 190 >

この作品をシェア

pagetop