月は紅、空は紫
「そうか、それではクスノキの事が何か分かればそちらに行くとしよう――ところで……お主はどうやって私の家を知ったのだ?」

 駆け引きも何も存在しない、真っ直ぐな質問である。
 この答え如何によっては――これからの清空の行動も決まる。
 イシヅキが何かを誤魔化そうとする素振りが少しでも見えるというのならば……清空はこれよりイシヅキを警戒せねばならない。
 『メジロを殺してくれ』という願いを持って来たのが、鎌鼬たちの作戦でもあるかも知れないのだ。

 清空の使命、『京の町を裏から守る』ということは裏を返せば『京の町に蔓延る妖の敵』ということでもある。
 何がしかの情報から、その役目を担うのが清空と知り――鎌鼬が清空を襲ってきた。そして、作戦の一部としてイシヅキが清空に接近してきた……というのは清空の考え過ぎであろうか?

 質問を終えて、少しの時も経ってはいない。
 しかし――質問を出した瞬間より、清空の意識はイシヅキに向かって集中していた。
 イシヅキの、一挙一動を見逃すまい、と――イシヅキには勘付かれぬように、それでも不自然にならぬ程度にはイシヅキを見つめる。

 清空の視線が集中する中で、イシヅキは口を開いた――。

「それは……『匂い』でございます」

 イシヅキの様子には、怪しい部分は見えない。
 それでも、清空は心の内に警戒を秘めながらイシヅキに再度問い返した。

「匂い……とな?」
「はい、匂いでございます。あの夜の川原で――歳平様から漂っていた匂いを辿ってこちらまで――やはり、ご迷惑でしたか?」
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