水月夜
予想外の出来事に目をしばたたかせるしかない。


ポカンとする私に、緒方先輩はポンポンと私の頭を優しく撫でた。


「そんな律儀に謝らなくてもいいよ。柏木ちゃんは大坪さんの応援をしたかっただけなんだよね。親友の応援をしてたって言われたら仕方ないよ」


「緒方先輩……」


こちらを見つめる優しげな眼差し、クイッと上がった口角、ぬくもりを感じさせる大きな手。


さっきまでやつれた顔を見せたと知っていても、心臓がドキッと高鳴る。


先輩は直美の好きな人なのに、なぜ私はドキッとしたんだろう。


目から涙が出そうになったタイミングで緒方先輩は私の頭から手を離し、慌てて背を向けた。


「い、行こうか。学校に遅刻したら担任の先生に叱られるかもしれないから」


「はい……」


ドキッとしたのはなぜか。


そのことを緒方先輩に聞けないまま学校までの道を歩いていく。


心臓が一瞬だけ高鳴った理由なんて知らなくていいよね。


今は、まだ……。
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