水月夜
驚くクラスメイトたちをスルーし、ヒロエが直美の耳もとでささやいた。


「どうしちゃったの直美ちゃん。私たちが来る前はあんなにえらそうにしてたのに」


不敵な笑みを浮かべ、直美の抵抗する様子を楽しむヒロエ。


それは紀子も同じだった。


「わがまま女王様のあんたなら、私たちに対してもえらそうな態度とるんじゃないの? あ、もしかしてえらそうな態度とる相手って、梨沙や雨宮くんみたいに優しい人なの?」


まるで自分とヒロエは優しくない、と言っているような感じ。


ふたりは優しくないのかと問いかけたくなるが、言葉を喉の奥に押し込んだ。


黙り込む私など気にとめる様子などなく、直美はヒロエと紀子の力から解放されようと必死に抵抗している。


拘束されている体を解放しようと抵抗することは、ヒロエと紀子にとっては予想の範囲内。


その証拠が紀子とヒロエのこの言葉だ。


「直美さ、梨沙のカバン掴んだとき、なんて言ったっけ? 『怖いことはなんにもしないから』だったよね?」
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