ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「なにこれ」

「五百万円ある。お前がいつか嫁に行ったときのために貯めておいたものだ」

 それは、私名義の預金通帳だった。

「並木のおじさんな、おばさんの高額な治療費や経営がうまくいかなくて借金しても、ずっと頑張ってたんだ。だけどおばさんが亡くなって、糸が切れちゃったのかな。つらくてどうにもならなくて、どこかに行きたくなったのかもしれない」

 私は黙って父の話を聞く。

「お父さんもわかるんだ。お母さんが死んだとき、本当に悲しかったから。でも、俺には小春がいてくれた。お前のおかげで踏ん張ってこれたんだ」

「お父さん……」

 私だって同じだ。お父さんがいてくれたから、なにがあっても乗り越えてこられた。おじさんは、ひとりになったと思ったのかな。心配でたまに様子を見に行っていたのに、全然気づけなかった。

「家や店を失ったっていい。小春より大切なものなんてないんだ。それなのに、お前には苦労ばっかりかけてごめんな」

 私は反射的に首を大きく振って否定する。
< 122 / 175 >

この作品をシェア

pagetop