ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「でもお父さん、どうしようもないバカだけど、それだけはどうしても渡せなかったんだ」

 父は赤くなった目を細め、弱々しく笑った。通帳を持つ私の手に力が入る。

 うちの経営状況でこれだけのお金を貯めることがどれだけ大変だったことか。必死にやりくりして、頭を悩ませてくれていた父の姿が簡単に想像できた。

 五百万円。それだけあったなら、当面のあいだの借金だって返していけたはず。それなのに……。

 父の陽だまりのような愛情が身に染みる。

「颯馬くんがいいなら、これを返して元の生活に戻ってもいい。残りはどうにかして必ず用意するから。お父さんも、退院したら会いにいく」

 その言葉に、心臓はどくんと跳ねた。

「お父、さん……?」

「考えてくれ。お前の大事な人生だ」

 いつになく真剣な物言いの父に、私は躊躇いつつもうなずいた。
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