ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 家路を辿り、先ほど父に言われたことを思い返す。

 もし颯馬さんに、お金を返すからなにもかもなかったことにしてほしいとお願いしたらなんて言うだろう。お見合いの件もあるし、ご両親たちにも会った。今さら困るよね。でも、理由は多分それだけ。私である必要なんてないのだ。

 胸が潰れそうなほど苦しい。

 お父さんの言う通り、やり直すのもいいのかな。そうすれば颯馬さんだって、好きな人と障害を乗り越えて結婚しようという気になるかもしれない。
 私と一生仮面夫婦をするより、その方が幸せに決まっている。

 いつか離れていくなら。颯馬さんの心が手に入らないなら。胸の中が、そんな醜い感情ばかりで埋め尽くされていく。

 私って、いつからこんなに欲張りになったのだろう。

「伝えられなくても、そばにいられるだけでよかったのに……」

 色々理屈を並べてはいるが、結局今の私は颯馬さんから逃げようとしているだけだ。この溢れる想いを隠すのがつらくて、自分に都合のいい逃げ道を探しているだけ。

 どの選択が最良なのかわからない。

 くまなく晴れ上がった紺青の冬の空。柔らかな日差しに照らされて、私はひどく泣きたくなった。
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