ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「常務には本当に好きな方と一緒になってほしくて。私、常務のことが――」

「西留。……少し黙ってくれ」

 自分でも驚くほど低い声が出た。彼女は怯えたように数歩うしろへ下がる。俺は立ち上がり、歩を進めた。迫る俺を見る西留の顔がみるみる強ばる。

「君の理由は聞いていない。少し出る。なにかあれば連絡してくれ。君をどうするかは、そのあとだ」

 吐き捨てて、俺は部屋から出た。急き立てる心に、足が徐々に速度を速めていく。

 会いたい。

 小春がなにを考えたいかはわからない。ただ、このままでいいのか、俺との生活を考え直したくなっただけかもしれない。でも、もしも誤解していたら? 君は優しいから戸惑っただろう。悩んでいるかな。

 そんな心配が胸を締めつけるのに、心の奥底で、君がこれを聞いて傷ついていたらとひどい期待がくすぶっていた。

 本当に最低だ。俺を思って傷ついてくれるのが嬉しいなんて。それでも、彼女が俺を好きだったらという希望にこんなにも心が乱される。

 ずっと君だけを見ていた。初めて出会ったあの日から、きっと、俺は君のことが好きだったんだと思う。小春と本物の夫婦になって、生きていきたい。そう告げて、今すぐこの腕に抱きしめたい。すべて話すから。君の顔が見たい。
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