ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「……ここへ来ているわけはないか」
社を飛び出してあちこち探し回った俺は、気づくと小春の家の前に来ていた。
小春が俺に見つけてほしくないなら、ここに戻ってきている可能性は低いだろう。それでも、めぼしい場所などもう他になかった。
俺は小春のこと、なにも知らなかったんだな。
街中がゆったりしている土曜日の午後。貼り紙が貼られたままの店の扉を眺め、心が次第に暗く沈んでいくのを感じる。
なにか他に行きそうなところを考えよう。そう思い、踵を返したときだった。
がちゃりと音がして、少し立て付けの悪い扉がゆっくりと開く。そしてその隙間から、伺うような面持ちの中年男性が顔を出した。
「すみません。ずっと立っている人影が見えたので。……あの、うちに御用ですか?」
すぐに小春の父だとわかった。澄んだ丸い瞳に人の良さそうな顔つき。まとっている柔らかな雰囲気がとてもよく似ていた。