ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「僕もわかります。小春さんは、お父様にとても大切に育てられた素敵な女性だと。自分よりも人を思うあまりに無理をしがちなことや、意見をなかなか言わないこと。その一方で、困っている人のためには行動派なところも」

 記憶を辿れば、こんこんと湧き出る愛情に笑みはさらに深くなった。

「僕はそんな彼女が愛おしくてたまりません」

「柴坂さん。君は……」

 小春の父が言葉を飲み込む。俺は立ち上がり、地面に膝をついた。

「僕が行った手段は褒められたものじゃありません。それでも、小春さんのそばにいたかった。この気持ちに嘘はありません。お父様、彼女を必ず幸せにします。僕たちの結婚をお許しいただけますか?」

 手をつき、深く頭を下げる。

「柴坂さん!」

 小春の父が慌てて俺の前にしゃがみ込んだ。顔を上げると、小春の父の弱りきった表情が覗く。
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