ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「私は小春を信じています。なににも変えられない大事な娘です。そんな娘が選んだ相手なら、私もその人を信じます。……ありがとう」

 小春の父は、目もとにたくさんのしわを作って微笑んだ。とても穏やかな笑顔だった。

「頑張ります。彼女に選んでもらえるように」

 そう告げて、俺も顔を綻ばせる。

「次は一緒においで。颯馬くん」

 小春の父は、嬉しそうに、どこか侘しげに俺の名前を呼んだ。

 俺はふと視線を流す。すると、格子状の扉にはめ込まれたすりガラスに、人影が映っているのが目に入った。

「小春?」

 思わずつぶやく。

 急いで立ち上がり、駆け寄る。その気配を察したのか、人影はすっと離れていった。
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