蛍火
縁側に靴を乱雑に脱ぎ捨てましろに詰め寄りぐい、と腕を引っ張ると、ましろが息をつめる音が微かに聞こえた。
しかしすぐにそれは蝉の声にかき消され、辺りはすぐに蝉の大合唱に包まれる。蝉なんて鳴いていたか。蝉の声を認識して途端に我に返った。

今の季節に鳴いていることなど当たり前だというのに、聞こえていなかった。それほど自分の世界に入り込んでいたことに、優夜は気づいた。
その白い腕を掴んでいた腕を離すと、優夜は力無く座り込む。ましろが控えめに伸ばしてきた手を握り、自らの頬に導いて。

「ましろ、頼むから……」

優夜はそっと懇願する。
自分より低い体温だからか、彼女の手はやけに冷たく感じた。自分は、ましろの苦しむ姿など見たくないのだ。その頬を見ればほら、今だって顔が赤くて──赤い。はたと優夜は気づく。

そう、赤い。赤いのだ。今まで発作があったときの頬の色は、何色だった?
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