蛍火
ぐ、と胸を握りしめて、優夜は言うのだ。

「…ましろ、俺、お前のこと抱きしめたいんだけど」

「…っ、あ、の、」

苦しくて、切なくて、たまらない。どうにかなりそうだ。

その顔を独り占めしたくて、優夜はましろに近づいた。
彼女はそれに気づくと身じろぎして後ろに後ずさろうとする。きゅ、とその小さな手に縋るように手を重ねると、ぴくっとましろの肩が跳ねた。
白いワンピースから覗く足が尚も後ずさろうと動くが、それを制すようにその顔を上から覗く。

ふるふると睫毛が震えているのが分かった。潤んだ瞳をまぁるく縁取るそれを見つめ、優夜は生まれて初めて、家族以外に甘えるような声を出した。

「…だめ?」

自分でも甘ったるい声だなというのが分かるくらい、それは蜂蜜のように蕩けていた。

「ぁ……」

汗が自分の頬を伝って落ちる。この暑さのせい?いいや、きっとこれは……。

「ゃ、じゃ、ない……」

掠れたようなその声が、愛しいせいだ。
< 63 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop