三十路令嬢は年下係長に惑う
神保鈴佳の働きぶりはすさまじいものがあった。そもそも、ほとんど席につく事が無い。内線電話がかかってくる、構内チャットで呼び出される、あるいは部署内の人間の指示で立ち上がる事もある。

 もちろん、神保以外の係長である間藤、白井も、常に何かしら対応をしていた。

 席に居ない目黒と中野は、別に場所があってそちらへこもっているという。

「お疲れ様」

 足にローラースケートでもつけているのかというほどの軽やかなフットワークでもどってきた神保をねぎらうと、

「すみません、なんか落ち着きがなくって……」

 申し訳無さそうに答えた。

「どうして? フットワークが軽くて皆に頼りにされてるように見えるけど」

 水都子が言うと、神保は目を見開いてふるふると震えながら言った。

「いつも、私怒られてばっかで」

「怒る? 誰に?」

「総務の坪井さんとか、落ち着きが無いって」

「ええ、でも、問い合わせ件数が多いのは神保さんのせいじゃないし、すぐに対応してくれて皆感謝してるのかと思った」

「いや、なんで不具合が起きるのか、って、怒られてばっかりで」

 水都子は驚いた。対応が早くて褒められるのでは無く、インシデントが発生する事そのもので非難されるというのはおかしいのでは無いかと思った。

 水都子の前の職場にも神保のような立場の人間がいるにはいたが、お役所的な対応で、ひたすら先延ばしにされる事の方が多かった。神保のようにくるくるとよく立ち回り、すぐに対処に来てくれたらありがたいと思うだろうに。と。

「それって神保さんのせいなの?」

 水都子が尋ねると、神保は少し困ったようになって、

「すみません、また後で」

 と、言いながら、神保はチャットで来ているらしい問い合わせに答える為にキーボードを叩き始めた。

「神保さ……」

 水都子が言いかけたところで誰かに肩を叩かれた。

 背後に立っていたのは間藤だった。間藤はその場で声をあげようとはせず、人差し指でブースの方を示し、言外に着いてくるよう促した。
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