三十路令嬢は年下係長に惑う
水都子は間藤に着いてミーティングスペースへ行き、扉を閉めた。

 どうぞ、と、席を薦められて着席をすると、間藤は座らず

「何飲みます?」

 と、聞いてきた。

「いえ、私は……」

「俺が飲みたいんで、コーヒーでいいですか?」

「あ、はい」

 有無を言わせない間藤に圧倒されて、水都子がしばし呆然としていると、間藤はそんな水都子をミーティングルームへ残して出ていき、すぐに戻って来た。手には数字がビッシリ刻印されたマグカップと、使い捨てのドリンクカップがあった。

「まだカップを持ってないんですね、マイカップを置いておいてもらえばコーヒーマシンはあるんで」

 そう言いながら、間藤が水都子の前に使い捨てのドリンクカップと砂糖とミルクを置いた。ブラックでいいですと言っておけばよかったなと思いながら、水都子は

「ありがとうございます」

 と、せっかく持ってきてもらったのだからと、ミルクと砂糖を入れてマドラーでかき混ぜた。

「エスプレッソとかラテもできるんで、あ、後で場所を教えます」

 間藤は役職的には上司になるはずなのだが、上から物を言うような事は無かった。水都子の生まれのせいなのか、誰に対してもそうなのかわかりかねて、ひとまず水都子も敬語で通すことにした。

 間藤と水都子が各々手にしたカップに口をつけて、一息ついたところで間藤が切り出した。

「神保の事なんですが、遊佐さん、まずは、あいつのサポートに入ってもらってもいいでしょうか」

「それはかまいませんが、技術的に神保さんと同様の事をするのはちょっと……」

 数時間見ただけで、神保の働きぶりは良くわかっていた。手を動かしてすぐにクローズする案件もあれば、技術的にどうこうというよりは、問い合わせ先に噛んで含めるような様子で丁寧に説明をする事もある。問い合わせの内容は水都子にはわからなかったが、神保の説明は、相手の言わんとすることをまとめ、内容が正しいかを確認した上で説明をしているので、横で聞いていてもどういった事に困っているのかがわかった。

「あー、どっちかっつーと采配です、神保は来た案件をできるだけスピーディに、飛んできた球をかたっぱしから打ち返すようなやり方をするんですが、遊佐さんがそれをすぐに対応すべきなのか、後に回せるのかジャッジしてやって欲しいんですよ」

「そんな判断私にできるでしょうか……」

 間藤の言わんとする事はなんとなくわかるが、さらに高位な判断が自分にできるとは思えない水都子は、素直に不安を口にした。

「もっとざっくばらんに言いましょう、総務の特定の人物からの問い合わせに対して壁になって欲しいんです」

 間藤は言いにくそうに言葉を探すようにしていたが、オブラートにつつむ事で事態がよくはならない事に気づいたのか、直接的な言い方を選んだ。
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