今でもおまえが怖いんだ
冷凍ひよこの解凍を行っていた青山さんは蛇口を閉めるとひよこたちを見えないようにカウンターの下へと移動させた。

「これ、チーフのところに持って行ってもらえる? 冷凍ひよこ大丈夫?」

女性スタッフにこそっと青山さんが訊ねている。

「あ、私全然そういうの平気ですよー。冷凍マウスは嫌だけれど」

「いや、その違いが分からないよ」

青山さんは少しだけ表情を柔らかくしたけれど、笑顔と言うにはまだかなりぎこちないものがあった。

じゃあ、俺本店行ってきますねと青山さんは告げて、カウンターの中ですぐにエプロンを脱ぐと、ポケットから取り出した煙草と財布を私に向かって差し出す。
持ってて、の一言が今日も足りない。

「車出すんですけれど、俺のプリウスと店のワゴンRだったらどっちが良いですか」

私は即座に「ワゴンR」と返す。

「え、でも社用車じゃ煙草吸えない」

どうして最初にこちらの意志を確認したのか分からないのだけれど、結局彼は自分の尻ポケットに入れているプリウスの鍵を取り出して、お店を出た。

「青山さん行ってらっしゃい」とお店のあちこちから声がかかるから、1度振り返って軽くお辞儀をする。
私もそれに合わせて一緒に会釈をしそうになって慌ててやめた。
私、別に彼女でもないしなあとわきまえた。

彼の車の中は雑然としている。

後部座席には職場の商品が大量に積まれたままになっているし、助手席に普段誰も乗せることがないようでボックスティッシュとかガムのボトルだとかブランケットがくちゃくちゃになって置かれている。

それ適当にどけて座って良いよと言われ、私はそれらを本当に適当に後部座席へと移動させて助手席に座った。

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