今でもおまえが怖いんだ
「あれ、今なにしてるんだっけ、お仕事」

車を発進させながら、青山さんが言う。

運転荒いですよと言い掛けていた私は突然の質問に「あ、あ」と少しどもってしまった後に「派遣です」と答えた。

派遣? とまるで聞き慣れない単語のように首を傾げて数拍置いてから、青山さんは「ああ、派遣」と頷いた。
日雇いみたいなやつだねと言われて大方合っていますねえと私も頷く。

飲みますかと飲みかけのペットボトルを差し出されて、それには首を横へ軽く振った。

今日も彼は眠たそうな顔をしている。
眠いわけではないんですよ、生まれつきなんですよ、と出会った頃は散々釈明をされた。

涙がこぼれそうな程トロンと潤んだ目は、涙袋が少しピンクがかっていていかにも寝不足な印象を受ける。
ゆっくりとした喋り方やマイペースな相槌の打ち方、フラフラとした歩き方、時々噛み殺す欠伸。

きっと眠いのだろうと思う。

後部座席に箱で置かれた珈琲とエナジードリンクもきっと彼が運転中に普段飲んでいるものなのだろう。
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