明日キミに聴かせたい
「え?」と少々驚いた表情を見せた先輩に「すいません」と告げながら1階のボタンを押そうとした時、私の腕を掴んだ先輩は、そのまま私を引き寄せるようにエレベーターから私の身を出し、エレベーターの扉は静かに閉まった。
「え?」と今度は私が驚きながら先輩の顔を見ると、先輩は優し気な表情で私の腕を掴む手をそのままに歩き始めた。
「あの…先輩…」
黙ったまま廊下を歩く先輩に向かって私は話し続けた。
「あの…先輩がどういうつもりで私をここに連れてきたのかは知りませんが、私ご、ご両親にお土産とかも用意してませんし、そ、その、まだ先輩の部屋に上がる準備も出来てないんですけどおおおお!!」
ガチャ。
「おう。相変わらず時間通りに来てくれるな」
「まぁな~」
その会話に目を向けると、ドアの向こうからひょこっと花瀬名雄が顔を出した。
は?と私はまた驚き、口をぱくぱくさせながら花瀬名雄を指差すと、伏本先輩は「こ~ら~人に指差しちゃダメって教わらなかったぁ?」と私のおでこにパチンと軽くデコピンをしてきた。
そのデコピンは誰にされたデコピンよりも優しく、私の脳を揺らしてときめかせた。