明日キミに聴かせたい

ーそのさ、白神さんをいじめてた奴らってどんなやつ?

ーえ、なんでですか?

ーいじめるっていう最低な行為を平然としてる奴ってどんな奴なのかなって思ってさ。


その言葉に私は文字を打つ指を止め、すぐには返事を返せなかった。

ぐるぐると、ぐにゃぐにゃと、ざわざわと、思い出してしまいそうになる頭の中で震える小さいもう一人の自分がしゃがみ込みながら泣いていた。


ーごめん。思い出させたよな。白神さんを苦しめたいわけじゃないんだ。忘れて。


忘れて。忘れる?

一瞬コウの歌声が聴こえなくなった。

何度忘れたって忘れたって何かの拍子に必ず思い出して苦しくなる。

泣いて、怯えて、また苦しくなって吐いて独り怖くなって、逃げられない。

どんなに引き込もって隠れて逃げても付きまとう。
あの笑い声も、あの言葉たちも、あの姿も、あの景色も、あの空気も、あの場所も、あの痛みも、あの感触も、あの日々からは逃げるように隠れ続けても消えやしない。

なのに、忘れるなんて出来るの?

忘れろなんてみんな簡単に言うけど、私にそれが本当に出来ると思っているの?



私には……出来る気がしない。



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